【 ナラ枯れというメッセージ 】 2009.11

 金山町の象徴である「金山三峰」を指して、イギリスの旅行作家イザベラ・バードは『日本奥地紀行』の中で「日本のピラミッドである」と著しています。その3つのピラミッドの一番西側に位置する薬師山(標高436.7m)は地元では「やぐっさん」と呼ばれ、農業、虫除けの神として深く信仰されている霊験あらたかな山であります。

 先日、この薬師山にめばえ幼稚園の年長さん26名全員が登りました。今年で34回目を迎える「薬師山登山」はめばえ幼稚園伝統の行事であり、年長さんの心と体の成長を試す絶好の場であります。入山の鳥居をくぐり緩やかな道から始まるこの登山。杉林を抜けるころから急な岩肌を見せ始め、園児たちには過酷とも思える急斜面をよじ登ると、そこから先は穏やかな雑木林の広がる絶好の森の遊び場となります。

 ところがこの見慣れた森の風景、今年は雰囲気がどうもおかしい!妙にドングリが多いし、幹に無数の穴が空き、枯れてしまった木もあります。「これ何ですかね?」と同行した山に詳しいお父さんに尋ねてみると「ナラ枯れですね」との答え。「えっナラ枯れですか?」「そうです。これはカシノナガキクイムシ。通称カシナガという5mmほどの小さな虫がナラの木に集まってくることによって起こる現象です。」とのこと。

 「ナラ枯れ」という言葉は数年前から耳にしていたし、最上峡の惨状は国道47号から遠目に見たことはあったのですが、目の当たりにしたのは今回が初めてでした。「これは大変なことになるぞ!」直感的にそう思いました。このままではナラに生えるキノコや住みかを求める昆虫。ドングリを食べるリスやネズミをはじめとする小動物ばかりでなく、ツキノワグマや猛禽類に至る大型動物まで森全体の生態系が崩れてしまう!そう感じたのです。

 新聞によると山形県内34市町村で前年比4倍、11万2,000本の被害木が確認されており、行政としても「合成フェロモンによるカシナガ誘引補殺」という方法で奥山や急傾斜地から誘き出して捕まえようとしているのですが、何分、面積が広大であるばかりでなく毎年10数キロの範囲で拡散していくので追いつかないのが現状のようです。

 もともとナラ枯れの原因であるカシナガは日本に昔からいた虫で、ナラ枯れ自体も古くからあったのですが、このように被害が急速に広がることはなかったようです。しかし1950年代以降の燃料革命により、炭や薪の需要が減り、ナラ林に人の手が入らなくなった結果、ナラの老齢化や大木化が進んだことで被害が急速に広がったと言われています。事実、被害木の多くが樹齢50年以上の老齢樹だそうです。つまり森と人との関係が遠のいたことに原因がありそうです。

 薬師山にはドングリがたくさん落ちていました。例年ですと小指の先ほどのドングリがぱらぱらと転がっている程度ですが、今年は親指大のドングリがそこら中にゴロゴロと、まるで拾い集めたドングリをわざとこぼしたかのように一面に落ちているのです。そんなドングリを喜々として拾い集める子ども達をよそに「俺はもう終わりだ。後はおまえたち、頼んだぞー!」というナラの古木がドングリたちに託した最後の願いが聞こえてきそうでした。

 「ナラ枯れという自然からのメッセージに私たち人間はどう応えていくのか?」子ども達と登った薬師山を見上げながら、そんなことを思う今日この頃です。